【優秀賞】「そこらじゅう」

【優秀賞】(神戸市立兵庫商業高等学校第2学年 兼平こより)

「そこらじゅう」

私は室外機が好きだ。そう、どこにでもあるエアコンのである。あんな何の特徴もない機械を好きだと人に言うと大体、何を言っているんだという顔をされるが街を歩いているとつい目がいってしまう。そんな私が室外機に惹かれたきっかけは高校2年に上がったばかりの頃である。高校2年から新しく選択授業が増え、新しい教室で学ぶことになった。その教室で、私は窓際の席だった。授業の途中、ふと窓の外を見るとひとつの室外機がポツンと、しかしドスンとこちらを向いていた。隣の校舎の屋上に置いてある室外機であった。室外機の構造はよく知らないが、なんとなくどこに繋がっているんだろうと、配管を目で辿ったけれど、どの教室に繋がっているのかは分からなかった。しかし、初めて存在感を感じた室外機は屋上にあったため、少し私の目線より上にあって、私が見ていることに気付かずに空を眺めているようで、屋上にポツンと佇んでいる“人”のように感じた。その寂しげであるようで強い存在感に思わず授業を聞くのも忘れて目を奪われた。
それからというもの、選択授業のある曜日を待ち遠しく感じた。授業の合間、することのない時間があれば窓の外を見ていた。その室外機は雨風にさらされているので、錆びている。その錆び加減でさえも私をしびれさせる。また室外機の後ろには空が広がっているので、その日の天候によって室外機の映り方も違うのだ。晴天の日は、晴れ渡った青い空に「白」というのか「灰色」というのか曖昧な色の柔らかい四角のボディーが光り輝く。天気の悪い日は、うす暗く重たい鉛色の空に室外機の曖昧な色が溶け込むように佇む。次第に選択授業の時間は室外機の魅力に酔いしれる時間と化していった。
さて、近年「廃墟」や「工場夜景」がブームになりつつあることをご存知だろうか。インターネットで検索してみると、マニアの方達が廃墟や工場夜景の良さ、おすすめのスポットを紹介するサイトなどがいくつも出てくる。さらに最近はそういったものに魅力を感じる人たちの中で評価が高い人気の廃墟や工場夜景は、観光スポットとなり、観光ツアーが企画されて多くの人々が訪れる現象が起きている。実は私も室外機と同様に、廃墟や工場夜景を愛してやまないのである。その中で一番を決めるとするならば室外機なのだが、興味の無い人からすればそんなランキングなど、どうでもいいことなのだろう。
工場夜景の魅力を感じる部分は色々あるのだが、作業をする上で必要なために点けられている照明の強い光がすごく綺麗なので、ごく普通に夜景を見に行く感覚で楽しめると思う。なので、近年、観光ツアーや紹介されているページなどでは「デートにおすすめ」と謳っているものが多い。一方、廃墟は実際に使われていた建物が使われなくなり、廃れた特有の雰囲気に魅力を感じる。レトロというには少し不気味で切ない、なんとも言えない気持ちになるところが良い。そして私が室外機に感じる魅力は、この廃墟の魅力と相通ずるものがあると思っている。私はあの教室の窓際の席になっていなかったら室外機の存在を一生意識しなかったかもしれない。あの教室で室外機に出会ってから、街を歩けばそこらじゅうに室外機があるということに気付いた。今、この文章を書いている家のベランダにも室外機があって、稼働している。そんな、その存在を気にかけられない室外機は、使われなくなり忘れ去られる廃墟と似たような存在だと思うのだ。そこになんともキュンとする。
室外機のそんな存在感にも胸キュンするのだが、設置してある場所によって風貌が異なるところも面白い。人の多い場所にある店舗の室外機はスプレーでの落書きやステッカーなどが貼られていて、ベタベタとした見た目になってしまっている事が多い。お店の人からしたら迷惑だろうが、室外機好きとしては、その場所の賑わいを表しているようなゴテゴテしさに、落書きのセンスなども個性的でなかなか良いなと思ってしまう。また店舗の室外機は元からお店のデザインに合うように色が塗ってあったり絵が描かれてあったりする場合もある。そんな室外機を見た日には「気にかけられて工夫が凝らされていてすごいね、良いね・・!」と、どういう感情なのか分からないが泣きそうになる。
一度、街を歩くときに少しだけ室外機を意識して歩いてみて欲しい。気にすると本当にそこらじゅうにあって、ときに驚くほどの数の室外機が設置されている場合もある。そして室外機は被写体としても最適なのである。街並みの写真を撮ろうとするとき、室外機を少し入れ込むと非常に日常感の溢れる写真になる。モノクロにすると廃れた感じにも、スタイリッシュな感じにも変化して、撮影するのが楽しくなる。室外機の写真集なんて、いつか出せたらいいなと密かな夢である。

≪講評≫荒瀬克己先生

読みながら、坂口安吾が『日本文化私観』に書いていた「ドライアイス工場の美しさ」を思い出した。「そこらじゅう」にある室外機に視線を向けた兼平こよりさんの着想は、とても秀逸だ。よって、「廃墟の魅力と相通ずるものがある」という分析だが、さらに独創性を追究できるのではないかと思った。これからも観察眼と感性を磨いていってほしい。